Kenny Garrett

ジャズという音楽で重要なミュージシャンを3人上げろ、と、ちょっと強引な質問をジャズファンにぶつければ、恐らく全員が必ず名前を挙げると思われるMiles Davis。ビッグネーム過ぎて名前を覚えた頃はオレはアンチな立場だったけど、知り合いに誘われるまま結果的にMilesのグループでの最後の来日公演となった、伊豆でのコンサートを見てしまっている(その1年後にMilesは逝去)。その頃はあまりにも金を持っていない状態だったので、新幹線を使わず東海道線で伊豆(というか知り合いが熱海に住んでいたのでホントは熱海)までいくのはダルかったけれど、今思えば、もしあの時Milesを見るのをやめていたら、多分最大の後悔になっていた。

そのライブでのMilesのプレイは殆ど覚えていない。覚えているのは、本物のMilesの動く姿と、コンサートの最後、Milesがステージを降りて残ったメンバーが演奏を続けている姿。その時、丁度夕日がステージの裏側に来ていて、その夕日にケイ・赤城が重なって演奏している姿は、まるで作られたシーンのようだった。



Milesの最後のパーマネントなバンドで、最も重要な位置にいたのはKenny Garrettだといわれている。冠はMilesでも音楽的な部分ではKenny Garrettの力が必要だったという事。なのでまあ、Garrettのソロ・アルバムを買ってみたりしたことはあるのだけど、イマイチぱっとせず、個人的には殆ど興味の対象外になっていた。

だけどこの間、例によってタワレコをウロウロしていると、ちょっといい感じのジャケットがイチオシの場所にディスプレイされていて、とりあえず手にとって見る。でも、そこにディスプレイされるものは殆どオレには興味の持てないものが多いので、好奇心だけで手にとって見たのだけど、それはGarrettの新作。やっぱり要らないと思いながら参加ミュージシャンをチェック。ドラムとベースは知らない名前だけど、ヴィブラフォンにBobby Hutcherson、そしてテナー・サックスがPharoah Sanders。ちょっと気持ちがゆれる。Pharoahは1曲とか2曲の参加かと思ったけど、どうやら全編にわたって参加しているっぽい。これは聴きたいかもしれないと思って、もっとよく見るとピアノがMulgrew Millerで、ちょっと冷静になる。「やっぱいらんかも」と見つめていると、レーベルがNonsuchであることに気付く。再度考える。でもまあ、Nonsuchといえども、100%面白い作品ばかりという事でもない。とか、頭で考えてばかりだったけれど、さらに考えて、これだけディスプレイされているのだから試聴出来るはずだという事にやっと気付き、試聴コーナーへ。1曲目と適当に何曲かスキップしてもう1曲聴き、やっとOKサイン。



Beyond the Wall』というタイトルのこのアルバム、オレの目を引いたジャケットは、中国の万里の長城。ネットショップの説明を見れば、中国的とかアジア的という言葉が出てくるけれど、(もちろんそういう部分もあるけれど)オレにはさほどその印象は無い。ハッキリ言ってこれ、もろにImpluse期のColtraneミュージック。そのColtraneの最後期を支えたPharoahは、最盛期の凄みは薄れているけれど、それでも年季の入った音をゴリゴリ吹く。Hutchersonは時折さすがのソロを取り、わずかな時間でもキッチリ存在感を示す。今回初めて知ったドラムのBrian Bladeも、煽りまくりの音でバンドを鼓舞。そして肝心のGarrettはゴリゴリなタイプではないけれど、決して退屈では無く、音色的にもPharoahとコントラストになっているし、彼の歳月が無駄じゃなかった時間である事が分かる。









Kenny Garrett 『Beyond the Wall』




今は2006年、すでに21世紀に入って今更Coltrane的なものを聴く必要は無いと思うかもしれないけれど、でも、一時代を作った音と同質のものを現在の音として聴くのもそんなに捨てたものじゃ無い。