高柳昌行

怒涛のCD5枚発表シリーズのPSF受け持分の『侵蝕』は、1975年のNew Direction Unitでの演奏。元々1985年に100枚だけ発売されていたものらしい。オリジナルの形態に近づける為という事で、ライナーは入っていない。但し、海外用には英文ライナーを用意してあるらしく、国内でも希望者はその英文ライナーをもらえる。オレはタワレコで購入したのだけど、特に希望せずともその英文ライナーを貰った。でも、読む努力はまだ実行していない。

オレが高柳昌行のCDでよく聴いているのは80年代の音なのだけど、高柳は80年代はあまり管楽器との共演が無い。だから、『侵蝕』でサックスの音を聴いた時少し違和感を感じた。でもよく考えたら阿部薫との『解体的交感』『集団投射』『漸次投射』ではゴリゴリに共演している事を思い出す。阿部とのそれは、両者とも対峙したままの音になっていて、じっくり聴いていると少し疲れる部分もあるのだけど、これ以上考えられない組み合わせの一つでもあり、一聴の価値はあることを主張しておく。

肝心の『侵蝕』は、この間聴いたばかりの『Mass Hysterism』に比べればマトモなフリージャズといえる。フレーズの変化や維持、ぶつけ合い等々、混沌とさせるべきところはキッチリ混沌にし、整合性を見つけたいときにはそれも忘れていない。70年代には日本でも既に多種多様なフリージャズがあったはずで、(高柳を除く)それらは現在の中央線ジャズに引き継がれている音だと思えるけれど、高柳の音は、実は日本のシーンにはあまり引き継がれていないんじゃないかと思った。それは『侵蝕』の音がコテコテ感よりもヨーロッパのフリー・インプロと通ずる透明感があるからで、もしかすると高柳にとって、このスタイルでの演奏は、ある意味誰にも引き継げないものになってしまったのではないだろうか? そして恐らく、この辺りから音響的なものを積極的に取り入れ、80年代に至る過程でそれに不必要な管楽器を外し、自身との対峙を狙う為にAction Directに辿り着いた。とか、勝手な考えが頭をよぎる。









高柳昌行 『侵蝕』