八木美知依 / Ingebrigt Haker Flaten / Paal Nilsen-Love

昨年4月、Atomicの初来日の際に行われた(らしい)、八木美知依と、Atomicのリズム隊のIngebrigt Haker Flaten&Paal Nilssen-Loveによる即興ライブ。そのライブの模様をCD化した『Live! at Super Deluxe』がBombaから発売された。ライブの当日、サウンドチェック時に多少の打ち合わせがあったぐらいで、殆ど手の内のわからない状態での演奏だったらしい。図式としては当然八木対リズム隊になる。日程的に後に行われたAtomicのライブは見たのだけど、その時に一番耳についたのはNilsen-Loveのタイコ。パワフル、的確、明らかにバンドの心臓だった。ベースのFlatenについては、あまり印象に残っていないのだけど、AtomicのリーダーがFlatenである事を考えれば、Atomicのあのパワーは、Flatenの求めるによるものなのだろう。対する八木は、越境する筝奏者。ライブの場において一度その音を耳にすれば、筝という楽器にもっているイメージが壊れる。

どういうセッションを目指すのか、は、誰に主導権があるかで決まるのだと思う。その夜は本来的には来日中の身であるFlasteとNilsen-Loveが主導権を持つのだろうけど、このCDを聴いていると、ある意味即興らしい、音で主導権を取り合っているという風に聴こえる。但し、1曲目は即興から八木の自作曲へと変わっていく展開になっていて、そこは当然打ち合わせがあったはずだけど、その即興部分の荒々しさから八木の繊細さが現れる曲への移行は、絶妙なコントラスト。2曲目の「Bow Derek」は、元々タイトル通りBaileyに捧げられた演奏という事なのか、それとも後になって、Baileyへの追悼の意味をこめてBailey的な音を感じる事が出来るこの演奏を捧げる事にしたのかわからないけれど、かなり美しい演奏。



全体的には、パワフルで音数の多いNilsen-Loveとグルーヴに従事しないFlatenの音には、フリー・ジャズ的なものを感じる。まだ若い世代に属するこの2人の音が即興という場においてフリー・ジャズ的と思わせるのは、なんとなく時代が一回りした感がある。対する八木の音は、アグレッシヴであってもかなり知的に聴こえ、筝の持つ独特な音が現れても、それを上手く回避して、日本人が聴いても変にエスニックなものを感じないような音使いが感じられる(いつもそうだけど)。なんとなく上手く交わっていないような感じを受けたり、分かり合っているかの様な音の抜き差しがあったり、どちらも緊張感をはらんだ演奏になっている事が伺える。









八木美知依 / Ingebrigt Haker Flaten / Paal Nilsen-Love 『Live! at Super Deluxe』




即興における八木の音って、オレには完全にBailey的に聴こえる。彼女がそういう事を意識しているのかどうかは知らないけれど、音の感触だけじゃなくて、ラインもBaileyの様で、向き合う事を必ずしもよしとはしないという気持ちを持った演奏のように思える。