大友良英 / 中村達也

中村達也というタイコ叩きを、オレはあたりまえの様にBlankey Jet Cityで知った。BJCは個人的に、日本のロックバンドで最後に好きになったバンドだったと思う。そのBJCのタイコが中村達也なわけで、後に知る事になるのだけど、達也は原爆オ○ニーズやStalin等にも参加していた、変な言い方だけどパンクロック界のエリート。

BJCのライブは当時つるんでいた連中から何度か誘われたのだけど、色々あって見に行ってなくて、解散が発表された頃には、ラストライブを行動範囲外の横浜まで見に行く気持ちになれるほど好きではなくなっていたという事もあって、まあ、そんなに後悔はしていない。

BJC解散後のメンバーそれぞれの活動はあまり聴く気になれず、唯一、ベンジーUAと組んだAjicoは聴いていたけれど、それ以外には興味が湧かない。当然達也のLosaliosも興味なし。だけどここ数年、達也の活動が多岐にわたり、NYのトニックでセッションに参加したり、1月のピットインでのPain Killerとしてライブを行ったというのは個人的に興味深い出来事だった。ピットインでのライブは、Rock'N'Roll Gypsiesと重なった為に見に行かなかったけれど、一体達也というタイコ叩きはどんな音を出すのか、という事が気になりだした。まあ、昨年のContortionsの前座で、未Frictionとしての音は聴いていたけれど、あの時はFrictionの曲が目の前で演奏されているという事に興奮していた事もあって、はっきり達也がどうと思う事は無かった。そして4月の得三でのFrictionのライブでその音を聴き、結果的に一昨日のFrictionも聴いたけれど、やはりセッションという場においての演奏力というものを聴きたかった。だから昨夜の大友良英とのライブは、その達也のポテンシャルを確認する為の場としては、格好の場。

オレは日本国内において、自分の耳で聴いたタイコ叩きとしては、芳垣安洋吉田達也佐野康夫の3人が最も優れていると思っている。だから、達也のタイコは、必然的に彼らと比べながら聴く事になるわけで、こういう言い方をしてしまうと誤解されそうだけれど、オレの音楽への接し方という意味で言えば、達也に勝ち目は無い。芳垣や吉田は踏んできた場数が達也とは全然違うし、佐野のセッションドラマーとしてのプロフィールと、Unbeltipo Trioでのあのスピード感は、そんじょそこ等のものではない。そういった人達と達也では、それまでの履歴が違うのだけど、あえてこういうセッションをやるという事は、同じ土俵に上がってきたわけだから、比べるのはお門違いという事にはならないはず。



それで昨夜のライブでオレの思った達也というタイコ叩きの個性は、ロックで培ったパワフルな叩きっぷりだと思う。小手先を使わずバシバシ叩きまくる音は、かなりの力を感じる。そして、トータル2時間ほど叩いたと思うけれど、その叩きっぷりは終演まで変わらなかった。このスタミナは先にあげた3人を上回っているかもしれない。

「上回っているかもしれない」と言ったのは、それはその3人が、もし達也のような体力を持っていたとしても、ああやって叩きつづけるかと言えば恐らくそういう事はやらないだろうと思うから。達也のタイコはパワフルでよかったけれど、ただ、セッションという場で、音楽にニュアンスをつけるところまでいっていなかった。あえて悪い言い方をすれば、平坦だったといえる。真面目に全力で叩いたからこそ、同じ表情しか出せなかったのだろうけれど、1時間のセッションならば面白いけれど2時間のセッションではキツイ。



達也の事を書いた上で、昨夜の大友良英の演奏について。まず、昨夜は客層がいつもとは違うという状態だった。それは、達也ファンがかなり来ていたという事。達也のLosaliosは聴いた事は無いけれど、そのバンドにおいては、ある程度セッション的な、枠のある即興のような演奏を行っているはず。だから達也ファンは決められた楽曲の演奏では無いライブというものをある程度は知っていると思うけれど、大友のような、国内外問わず活動してきたインプロヴァイザー(しかもアンダーグラウンド)という一面を持った人の音に触れる機会は少ないだろう。昨夜のライブは大友の名前が先に出ていたので、音楽的なイニシアチブは大友が握っていると思っていたのだけど、ほぼMC無しで達也がメンバー紹介をしたというのを見れば、昨夜は達也に委ねていたのかもしれない。その証拠というか、元々は予定に無かったLosaliosのベーシストが参加していて、それはやはり達也の判断でよんだんじゃないかと思えるし、実際昨夜の演奏は、ベースがいなければちょっと苦しかったと思う。そして演奏内容は大友の個性を出し切るものではなかった。どちらかと言えば、例えばGreen ZoneやEmergency!での、他人のユニットに参加しているときの大友の顔(音)になっていた。それは、いけるとこまでいくのではなく、あくまでロック的な、という言い方の出来る演奏だったという事。だけど達也ファンが多い場であったからこそ、オレはあのフィードバックからの狂ったようなノイズギターを聴かせるべきだったと思う。達也ファンは、あの強烈な大友のノイズを聴くチャンスだったのに、それを大友が使わなかったというのは、ある意味損をしたのではないだろうか。この間のソロライブ時やONJOでの冒頭、さらには未Frictionでの冒頭にも聴かせたあの音は凄まじい力を持っていて、未Frictionの時には、大友を全然知らないような人達がその音に驚いた顔をしたのをオレは見ていた。だから大友は昨夜もあの音を出すべきだったと思う。



もう一度達也のプレイだけど、キッチリとした曲の無いセッションにおいて、オレが不満を感じるのはあたり前。達也はまだフリーなセッションを行うという場においては新人みたいなもので、新人がいきなり凄い事をやれるほどそっちの世界はやさしくない。だけど、最大の魅力のあのパワフルな音は文句無し。前日のFrictionもカッコよかったし、ハッキリとした曲(とらえずロックに限定するけど)があって、それに対するアプローチというやり方では、確実な物を持っている。

明日もDoorsでセッション的なライブ、しかも吉田達也とのセッションを行うようだし、これから場数を踏んで、彼の長所のパワフルなドラミングにプラスαが出てくれば、もっと魅力的な存在になるはずだ。




開演前と休憩中にかかっていた曲はアフリカのポピュラー音楽で、これは多分達也の選曲だと思う。こうやって色んな音楽への興味を隠さない人だから、現在はまだ通過点で、ここからさらにステップが上がっていくのは難しくないはず。あのひたむきに叩く姿と謙虚な姿勢(Blogを見れば大友は達也を気に入っている事がわかるし、昨夜は達也が「大友さんについて行きます」と言っていた)を見れば、カリスマチックなルックスだけじゃなく、性格的にも愛される人物である事も見て取れる。パンク畑出身のタイコ叩きがアヴァン系の世界でも一目置かれる存在になるというストーリーは、オレは結構面白いと思う。