藤井郷子オーケストラ 名古屋

4枚同発シリーズのインプレ、トリは名古屋オケの『Maru』。このバンドでは以前に『Nagoyania』というアルバムを出しているので、これが2ndという事になる。このバンドの最大の特徴は、藤井主導のグループでは珍しくギターが入っている事。そして何より、藤井自身が指揮に専念していて、ピアノを弾かないという事だろう。この2つの特徴は恐らく密接に関係があって、藤井はピアノとギターが同じバンド内にいるという状況をうまくコントロールできないのかもしれない。それを嫌って、名古屋オケにギターの臼井康浩をメンバーとした時点で、藤井はピアノを弾かずに指揮に専念する事にしたんじゃないだろうか。或いは単純に、指揮だけに専念するという事もやってみたいだけなのかもしれないけれど。

という事で『Maru』を印象付けるのは、やはり臼井のギター。当然所謂ジャズ・ギターではない。アヴァンな音やBaileyを思わせる音がありながら、ロック的な音もある。だけど、強迫観念にかられたような弾きまくりはせず、管楽器のアンサンブルのバックで音を響かせてみたり、その逆にアンサンブルを後ろにまわしてシングルトーンで押し切ってみたりする。オレの趣向のせいだと思うけれど、このバンドはやはり臼井のギターが有ると無いとでは、違うバンドになってしまうと思う。それぐらい、このギターはバンドに個性を与えているし、それを利用した藤井の目利きの鋭さは、さすがとしか言いようが無い。




4つの藤井オケをとりあえず聴いて、もっと聴き込むと印象は変わってくると思うけれど、今の時点で言えば、NYオケ=クール、東京オケ=スキル、神戸オケ=ノリ、名古屋オケ=棘という感じ。個人的な好みでいえば、今のところは名古屋オケに引かれるけれど、今の蒸し暑さから当面は気温の高い状態が続くので、秋口までに聴く回数が多そうなのはNYオケになると思う。

藤井がこうやってオケを幾つも持っているのは、その運営費用という、現実的な問題からだと思う。だけど、それによってバンマスが同じでも、それぞれ個性を持ったバンドが作り上げられる事を知る事が出来たわけで、本当はこの状態は藤井にとっては大変な事かもしれないけれど、出来る限り続けてほしい。というか、ゆくゆくは各都市に藤井オケが出来れば面白いんだけどなあ。