芳垣安洋KC5

今おそらく、芳垣安洋というタイコ叩きはピークだと思う。なぜなら、彼絡みのライブは外れが無く楽しめるものばかりで、そのなかで必ず、芳垣の圧倒的なパフォーマンスを聴く事が出来る。なので、チャンスがあれば、芳垣の主導するライブはなるべく見ておきたい。昨夜のピットインでの芳垣安洋KC5というユニットもどんなものか全然知らず、面子を見て何となく、民族音楽的な要素を取り入れたものだろうかと、勝手な憶測だけでライブを見に行った。

金曜の夜だというのに客の入りは悪く、Vincent AtomicsやONNのような、多少名の知れたユニットでなければ、芳垣のライブでも満員という事にはならないのかと、少し驚く。

ライブの冒頭、芳垣からその夜の趣旨説明があり、なんとジャズをやると言う。偉大なジャズの作曲家の曲も2曲ほどやると。面子をみてどうといいながら、吉野弘志は名を知っていても、塩谷博之という人は名前を見た事あったような気がするぐらいで、もちろんどちらもその音楽性はわからない訳で、オレの憶測はライブ前に否定された。そうは言ってもジャズが嫌いな訳じゃなし、それどころか元々ジャズ好きなので、この意外な展開はそれはそれで楽しみ。



演奏は基本的に作曲されたものを演奏するスタイルで、VAの曲のシンプルな編成バージョンや青木タイセイの曲、吉野の曲などを演奏。ジャズの偉大な作曲家というのはRollnad Kirkと吉野の事で、Kirkの曲はEmergency!!でもおなじみの「Inflated Tear」。これらの曲はある程度予想の範疇の選曲だったけど、驚いたのは、なんとBrian Enoの「By This River」と、Victor Jaraの「El Derecho de Vivir en Paz(邦題 平和に生きる権利)」をやった事。特に「By This River」のカバーなんて想像した事も無い。「平和に生きる権利」の方は、どうやら他のユニットでも演奏していたらしいけど、ここであの曲が聴けるという事は驚きだった。

演奏という面では、初めて接する事になった塩谷と吉野が気になったのだけど、ジャズという事で塩谷はかなりブローするタイプのホーン奏者(クラリネット、ソプラノサックス)かと思いきや、オレの予想はここでも外れて、慎重にラインを選んで割とのらりくらりと吹くタイプで、感情に任せて音を出したりはしない。昔ならこの手の奏者は苦手だったのだけれど、Chris Speedが耳になじむようになってからはこういう音も好きになり、昨夜のライブの雰囲気とも相性がいい演奏だった。

塩谷はベースの使い手で、太いトーンで屋台骨になりながら、時折消えるような瞬間もある。ベースが消える瞬間というのは、他の音がふっと浮き上がるような状態になり、その辺の巧みな音の使い方と、このクラスになれば当たり前なのだろうけれど選ぶラインが一々カッコ良かった。

おなじみの三人は、今更言う事は無くさすがの演奏。そういえば今回「Inflated Tear」でタイセイは鍵盤ハーモニカを使ってあの旋律を吹いていて、それがなかなか達者で面白かった。高良久美子の両手に2本ずつバチ(っていうのか?)を持っての演奏はいつ見ても凄みを感じるし、芳垣はいつもよりは少し押さえつつも、多様な叩きを聴かせ、そして本編最後の演奏ではあの切れる芳垣も見せていた。

で、ジャズだったかとえいば、まあ、確かにいつもよりはジャズだった。だけど4ビートファンが喜ぶ演奏かどうかは、オレにはわからない。