Nirvana

昨年シラっと出ていた『Sliver: The Best of the Box』は、04年に出て話題になった『With the Lights Out』(CD3枚+DVD1枚)の編集盤。3枚組を買うのは躊躇してしまうような人へ向けたものだろうけど、ボックスに入ってなかった未発表曲が3曲収録されているという事で、ボックスを持っているような濃い方のファンも購入せざるを得ないという、罪な代物。ボックスもこの編集盤も決して音質は良くないので、結局はどっちもNirvanaの公式なアルバムを全部持っているような濃いファン向き。オレは最初は要らないと思っていたけど、まあ、安いし、3曲入りの高めのシングルを購入したつもりで結局購入した・・・。ボックスのベストテイクを集めたというところなのだろうけど、オレの好きな「I Hate Myself and I Want to Die (B-Side)」や「Heart Shaped Box (Demo)」が入っていないので、個人的にはベストとは言いがたいけど、まあ、どうしたって選曲者の好みが出るものだし、文句を言うつもりは無い。でも、やっぱ「Heart Shaped Box (Demo)」は入っていないといけないと思うけど。それでも「Do Re Mi」という、公式な録音が残らなかった美しい曲が入っているので、やっぱ文句は言わない。



突然少し前のアルバムの事を言い出したのは、『Last Days』を数日前に観てきたから。

この映画、現時点ではライズで単館上映中のせいか、映画なのにもかかわらず全席指定で、ちょっと鬱陶しい。それと、Gus Van Santの主観によるKurt Cobainの最後を見る事になるという事に抵抗感があった。だけど、それでも気になってしまい、結局足が向く。

『Last Days』を観た日は雨が降っていて、だから観客もいつもよりは少ないだろうと思い、とりあえずライズに行ってみた。そして窓口で次の上映に空きがあることが分かり、このタイミングしかないと思い、窓口のお姉さんに入場の意思を伝える。「1階と2階、どちらがいいですか?」と聞かれ、思わず「空いている方」と言ってしまう。問いかけの答えになっていない事に一瞬困惑した顔をしていたけれど、「どちらもそんなに空いていませんが、比較的2階のサイドのブロックは空いていますのでそれでいかがでしょうか?」と言われ、それでお願いすることに。結局オレの横から壁までの5〜6席は着席が無く、窓口のお姉さんの言葉に従ったことが吉となった。



『Last Days』を観ることの抵抗感の一つに、現実にいた、時代を象徴してしまったミュージシャンが死ぬシーンを見に行く事になるという事がある。はっきり言えば、そのシーンを見る映画でもある。それを映画だからという理由で、スクリーン上の出来事として片付けてしまうには、まだ生々しさが残っている。でも、それならばそれで、これを観ようと思った。



映画にはNirvanaというバンドも、Kurtという名前も登場しない。Blakeという名のKurt Cobainが、森やその近くにある家(Blakeの別宅だろう)をただブツブツとつぶやきながらうろつくだけだ。その家にはBlakeの知り合いと思わしき連中が住んでいて、彼らはBlakeと関わったり関わらなかったり、単純に自分の行動をしている。その間Blakeはマトモに話すことは無い。Blakeが人気のあるロックバンドのメンバーだと分かるシーンは、バンドのメンバーからの電話、誰か(音楽業界?)がBlakeを探しに来るシーン、Sonic YouthのKim Gordonが演じるレコード会社の役員との会話、知り合いの1人がBlakeに自分の楽曲に助言を求めるシーンなどの数シーン。Blakeが女性もののストリップのようなものを着ているシーンや、その姿での電話帳の営業とのかみ合わない会話、意味の分からない事をブツブツとつぶやきながら歩く姿をみていて、映画とはいえ、こんなにも無残な姿にKurtを置き換えていいのかという気持ちがあった。マトモなストーリーは無い。ただ、Blakeが、最後を迎えるまでの時間をGusの想像力で描いたもの。一度終わったシーンを、時間を戻して別の場所と視点からもう一度同じシーンにたどり着くという手法を使って、なんらかの意味があるのかと考えさせられるけど、それを読み取る能力はオレには無いし、読み取る必要も無いのだと思う。多分それは、別段意味があるわけではなく、単にそうやって描いただけだ。

それでも印象に残るシーンはあって、夜(明け方?)、森を徘徊しているBlakeが立ち止まった時の暗闇のブルーや、たむろしている連中がVUの「Venus in Furs」をステレオ装置で再生し、それにあわせて歌うシーン、そしてBlakeがおもむろに歌う「Death to Birth」。

この映画の為に、Blakeを演じたMichael Pittはかなり役作りをしたらしく、Blakeの歌う「Death to Birth」はPittの作った曲。うろつくシーンや空虚な目は、只の想像でしかない。Pittが感じて演技したわけじゃなく、Gusのシナリオに従ったものだろう。だけど「Death to Birth」はPittの役作りから生まれた曲であろう事は想像に難しくない。だからオレは、この曲を作って歌ったことが、Pittの役作りの成果だと思う。




Kurtはその遺書に「It's Better to Burn Out, 'Cause Rust Never Sleeps」という言葉を書き残したと言われている。これは、Neil Youngの「Hey Hey, My My (Into the Black)」(『Rust Never Sleeps』に収録)の一節で、その話を聞いたときのNeilのショックは大きかったらしい。単純にこの言葉に誘発されてKurtは消え去ったわけではないのだろうけど、自分の言葉が、自殺したものの遺書に引用されていたという事はあまり気分のいいことではないだろう。

その後Neilは『Sleeps with Angles』というアルバムを作り、そのタイトル曲はKurtに捧げた曲らしい。Kurtの死を受けてのせいか、このアルバムにはある種の重さが滲み出ているけれど、オレはその重さが嫌いじゃ無い。

こうやって、自分の周りで起きてしまったことに対応(反応)するNeilという男には、誠実というものを感じる。