DJ Krush

前にECDの事を書いた時に、「Krushはおいといて」というような事を書いたと思う。ECDはオレにとって日本のヒップホップの象徴的な存在。それに匹敵するのがDJ Krushで、オレにとってはもう一方の雄と言える。ECDがラップでKrushがDJというのも、バランスがいい。Krushを聴き始めたのは『迷走』というアルバムからだった。それ以前から『Stricky Turntablized』などが話題になっていたけれど、Mo' Waxと言うことでなんとなく避けてしまっていた(別にMo' Waxが嫌いなわけじゃないのだけど)。だけど『迷走』は、国内ではソニーからの発売で、別にソニーだからというわけではなく、Mo' Waxのイメージが離れたという事で購入してみたのがきっかけだった(但し、海外ではMo' Waxにライセンスされていた)。この『迷走』というアルバム、現在にいたるまで個人的なKrushのベスト。特に1曲目の「Only the Strong Suvive」は、最も好きなヒップホップの曲の1つ。前作までのアルバムではトリップホップなどという言葉が用いられていたけど、『迷走』は間違いなくヒップホップだった。

その『迷走』を聴いてから現在まで、オレはKrushの音に反応している。もちろん、全てのアルバムがいいと思っているわけではなく、『迷走』と違う意味で傑作と言えるのは『覚醒』ぐらいで、それの他アルバムは、この2枚ほど聴きこんでいない。それでも、『迷走』の前のアルバム『Stricky Turntablized』に収録されている「Kemuri」はKrushの代名詞的な曲で、繰り返し何度も聴いているし、他のDJと組んだ流で、Tha Blue HerbのBossをフィーチャリングした曲を発表し、オレのような東京のヒップホップしか知らない連中に、凄いMCがいる事を教えてくれた(その後Krushの『漸』に収録されている「Candle Chant」で再びBossをフィーチャーし、日本のヒップホップにおける最も優れた曲を作った)。

前作『寂』から1年半が経って届けられた2枚のアルバムは、これまでのKrushの歩みを総括したベストアルバム。ラップや歌をフィーチャーした楽曲で占められた『Stepping Stones -Lyricism-』と、インスト集の『Stepping Stones -Soundscapes-』。殆どの曲はオレの持っているCDに収められているので、慌てて手を出す必要は無かった。なので「聴きたくなったら買おう」ぐらいのつもりだったのだけど、結局発売されてからまだ日が浅い状態で購入した。

既存の楽曲の再コンパイルとは言っても、Krushのセルフリミックス(新リミックス)ということなので、ここに収められた楽曲がどういう風に変化したのか、しかもKrush自身のリミックスなので、ある意味新作に接するように聴くことができる。そういう期待で2枚のアルバムを聴いてみた。

結論から言えば、残念ながら今回のベストは、オレにとってはベストにならなかった。新たにリミックスされた楽曲は、妙にブーストがかかったような印象のものや、音数が増えて派手になったもの等、なんだか全体にアッパーな音になっている。「岐路」なんてあの音の隙間に凄さを感じていたのに、なんか一時流行ったUS南部系のMaster P達のような印象さえある。