藤井郷子カルテット

前日のOrnette Colemanが個人的には満足のいくものではなかった事もあり、今夜の藤井郷子カルテットに対する期待は大きかった。いや、期待というのはおかしい。このバンドが凄い事はもう分かりきっていることだし、期待というのではなくて、なんていえばいいのか分からないけど、もし何かトラブルがあってライブに行っているような状態じゃなくても、今夜は絶対にこのライブを見なければいけないような気持ちになっていた(別にトラブルなんてなかったけど)。

今夜のライブは1stが新曲だけで構成され、2ndとアンコールは、目下のところ最新作の『Angelona』の収録曲。

いつも同じことしか言えないのだけど、やはりこのバンドは凄い。吉田達也と早川岳晴というアグレッシヴなリズム隊は、らしいところを存分に見せつけながら空間を構築していく。その強烈なリズムの上で、一歩も引けを取ること無く、フルでラッパを鳴らしきる田村夏樹。バンドのリーダーにもかかわらず、自己主張よりもコンポジションに重きを置く藤井郷子。音を楽しむという事を、今夜は十二分に味わった。今夜聴いたこの音があるからオレは、ジャズという音楽に拘り続けることが出来る。




と、とりあえず興奮を書いてみたので、ライブを見ながら思ったことを思い出してみる。

何を今更だけど、吉田達也のドラムセットを見てちょっとビックリする。まるで初心者向けの様なシンプルなドラムセットで、最小限のセットなんじゃないかと思う。バスドラに2個のタム、フロアとスネア、2個か3個のシンバルにハイハット。ドラムセットというもので、これより少ない構成はあまり見たことが無い。他に小物を持っているわけでもない。たったこれだけであのリズムを作り出す。

今夜のライブで最も強烈な音を出していたのは、早川岳晴のベース。エレクトリック・ベースを弾くという事に関して、この人より凄い人をまだ見た事が無い。と言うか多分そういう人はいない。そう思わせるようなベースを弾く。重低音で、ゴリゴリに太いラインを弾く。ベースの音がこれだけ羅列していくと圧巻。今年は梅津和時の2種類のバンドでも早川を見たけれど、やはりこのバンドでの演奏が一番凄い。

ライブで聴くたびに評価の上がる田村夏樹は、今夜、オレにとって最も好きなラッパ吹きになった。テーマもアドリブも完璧なトーンで音を鳴らしきる姿はホントにカッコいい。音がコントロールされるというのは、この人の様な演奏の事だと思う。

そしてリーダーの藤井郷子。多分この人は、自分のバンドで他の人のポテンシャルを引き出すことを楽しんでいる。大きくは演奏の方向付けを主としているフシがあるけれど、いざ自分のソロになれば、普通のピアノ弾きでは無いところをしっかり聴かせる。彼女のピアノは、フリージャズの系譜にある強い音をたたき出す瞬間もあるけれど、フレーズを発展させてリリカルに音を並べたり、あまり音を詰め込まず、空間を利用したりする。その、音を置いていく感覚は、ジャズだけではなく現代音楽やエレクトリックなインプロなどの音から影響を受けたものだろう。それをうまく用いてソロをとる姿を見れば、まだまだピアニストとしても進化していることに気付く。



昨夜みたOrnetteのコンサートは¥7,800。今夜のライブは¥3,000(1ドリンク付)。昨夜のオーチャードホールはほぼ満席。今夜のピットインは「結構入っているな」と思える状態で、7割程度の入り(5〜60人?)。

ま、いつものこと。