Joseph Holbrooke Trio

Joseph Holbrookeは、Derek Baileyがノン・イディオマティック・インプロヴィゼーションをはじめたときの一番最初のユニット。Baileyのギターに、Gavin BryarsのベースとTony Oxleyのドラムが加わった編成。いきなり初めからスーパー・ユニットが出来上がってしまっていたという事になる。だけどこのユニット、Bryarsが即興というアプローチに興味が無くなり、短命でその活動が終わってしまう。その為このユニットによる正式な録音物というものは存在していなくて、唯一、65年に録音された1曲のみが『Joseph Holbrooke '65』として日の目を見ている。ここで興味深いのは、その唯一の音はインプロではなく、John Coltraneの「Miles Mode」を演奏しているという事だろう。Baileyが曲を演奏(モチーフに用いた場合も含む)しているという録音は非常に少なく、これ以外に『Solo Vol1』の2曲と『Ballads』、後年発掘された66年の『Pieces for Guitar』という最初期の練習テープをCD化したもの、そして曲の一部分の演奏だけど、Gavin BryarsのObscureでの作品ぐらいしか思い浮かばない。それ以外のBaileyの演奏は、五線譜に書かれた記号の再現や独自の解釈などという作業には関わらず、あくまでノン・イディオマティックであるという事を前提としたインプロヴィゼーションを貫いた。



Joseph Holbrookeは98年に一時的な再結成を行い、その時のライブの模様は『Joseph Holbrooke '98』としてCD化されている。今回Tzadikから発売された『The Moat Recordings』はその再結成時に行ったスタジオ録音。

この作品は結果的にBaileyの逝去後初の、Bailey関連の音の発表になるのだけど、これは追悼盤として企画された訳ではなく、結果的にこういう事になってしまったというだけのこと。

今回陽の目を見た『The Moat Recordings』には、3人の優れたミュージシャンによる演奏が封入されている。これを聴いている時間は確実に、(オレにとっては)至高の音を聴いている時間。




Baileyの音は、70年代に比べてそれ以降は鋭さが和らいだという指摘を見かける事がある。それは、オレもそういう風に感じることがある。やはり70年代の作品の音の凄さは別格で、それが時代の音ではなく、Baileyの音として確立された音だからこそ、今現在においても孤高の響きになっている。だけど、たとえ音色やフレーズの鋭さが減ったと言えども、Baileyの音のモチベーションは下がってなくて、80年代以降の音であっても、確実にBaileyの世界の音だと言える。そして多種のインプロヴァイザーと演奏する事により、表現の幅、録音された音の幅を広げ、共演した者達に演奏しつづける事の意味を与えていたと思う。

「バードの音はどんなものでも世に出すべき」という様な事を言った人がいたと思うけれど、オレにとってはBaileyの音こそがそれに当てはまる。