Johnny Cash

今日の東京は天気が良く、季節の変わり目に差し掛かったのだろう。多分東京で一番いい季節はここから一ヶ月ぐらいの時間。だからこういう時は外の、あまり人の居ないところで時間を潰したくなるけれど、こういうときに限って外に出ることが出来ない所用がある。それをこなす為にPCに向かって、勿論TVは点けずに、聴きこみの足りない音を流していると、Beth Ortonの新作『Comfort of Strangers』がこの季節のこの時間に合う事に気付く。いつの時代の音なのかと思わせるこの音は、だから今までのポピュラーミュージックの中に残ってきた普遍的な良さというものを持っていて、それに彼女の歌声に押し付けがましい部分が足りないことが上手く作用して、今がいつなのかをわからなくさせる。

それに続けて聴いているのは、Johnny Cashの『American Recordings』。今公開されている『Walk the Line』という映画はこのCashのストーリーらしいけど、映画よりもまずは彼の音に触れて欲しい。といってもオレはそんなにCashの音を知っているわけではない。オレが聴いているのはCashがAmerican Recordingsに移ってからの作品ばかりで、それ以前の作品も持ってはいるけれど、それを聴くことはあまり無い。その必要が無いぐらいにこの4枚(『American Recordings』 / 『Unchained』 / 『Solitary Man』 / 『The Man Comes Around』)は、繰り返し聴きたくなるものを持っている。

American Recordingsは、あのRick Rubinが立ち上げたレーベルで、だから最初期はヒップホップ系のレーベルとして機能するのかと思っていたけど、実際には彼が選んだ優れたミュージシャンの音を発表する場になっている。このレーベルにCashを招き入れたRubinは、シンプルに、ただ生のままのCashの歌を録りたかったのだろう。ここで発表された4枚のアルバムはCashの締めくくりの4枚になってしまったけれど、衰えを感じるようなものではなく、歌手という存在が伝えることの出来る最大の情感を持っている。そして、そんな歌でありながらも、この時間帯に聴くことがこの音の魅力を一番引き出す。何も見ない昼の時間。その時間にCashの歌は、優しく、厳しく響く。