Tortoise & Bonnie‘Prince’Billy

オレは今ではまるでJim O'Rourkeのファンみたいなフリをしているけれど、実はGastr Del Solはリアルタイム時には聴いていなかった。その頃は、Tortoiseの方が好きで、Gastr Del Solまでには気は回らず、ろくに聴いてもいないのに、「Gastr Del Solつまんね」とか言っていた。なのでGastr Del Solを改めて聴いたときには大分後悔した。

Tortoiseは2ndから聴きだして、アルバムもそんなに多くないし、何故か丁度あまり聴くものが無いときに新譜を出してくれるということもあって、割と聴きこみ度は高い。『Standards』なんて、2001年の元旦に発売で、正月は新譜で聴くものが少ないという状況を解消してくれた。そのTortoiseの新作はBonnie‘Prince’Billyとの連名作。Bonnie‘Prince’Billyと言えば、、、と書きたいところだけど、まったく初めて聴いた名前で、「誰?」状態。ライナーでわかったのだけど、Will Oldham名義でも作品を出していて、そっちはいくらか名前を知っていたのだけど、やっぱり聴いたことは無い。名前を見ただけでは、何を担当しているのかもわからない。

という状態で聴きだした『The Brave and The Bold』。聴いてすぐにわかったのは、Bonnie‘Prince’Billyはボーカルという事。なのでTortoiseとしては珍しく歌伴の演奏という事になる。なんとなく聴いていると、聴き覚えのあるメロディーに気づく。2曲目を聴いていると「これは・・・」と思い、ライナーを読む。やはりBruce Springsteenの「Thunder Road」だった(1曲目はMilton Nascimentoの「Cravo e Canela」)。さらに3曲目はMinutmenで4曲目はElton John・・・。さらに7曲目はDevoで、9曲目はRichard & Linda Thompson・・・。このアルバム、全篇カバー集だった。MiltonとSpringsteenを同じアルバムでカバーしているという事にクラクラする(本当はクラクラしてないけど)。それでもこのアルバムは同一のトーンで貫かれていて、散漫な印象は無い。歌伴のTortoiseは、若干押さえ気味ながらも、らしさを保っている。そしてBonnie‘Prince’Billyは深めの声を持っていて、その声で「Thunder Road」を歌うなんて悪意のあるカバーなのか?と一瞬考えたけれど、多分そういうことではないと思う。




This Heatの後にこれを書いたのは偶然なのだけど、Tortoiseはやはり、This HeatやPop Groupが持っていたポストロックとしての性質を受け継いでいるバンドだと思う。そういうバンドは、音楽を「向こう側」に持っていく事でロックを解体して見せたのだけど、Tortoiseがシーンに出てきたときには既にロックという音楽は、絶対的なシンボルとしての価値を失っていたと思う。ロックにおいて、今のところ最後のカリスマはやはりKurt Cobainで、Nirvana以降、ロックファンなら誰でも知っているアンセムを持ったバンドというのは存在していない。

TortoiseNirvanaの様なシンボリックな存在にはなれないと思うけれど、ポストロックの系譜のなかで見落としていた「歌」という部分を、彼らがこれを期にそれを深化させるようなことが出来れば、行き詰まり感のあるポストロック及び、ロックそのものの新しい地平みたいなものが開けるんじゃないだろうか。

そういう風に夢想出来るぐらい、このアルバムの持つ音の方向性は、一つの可能性を示していると思う。