坂田明 / Jim O'Rourke

この間のログは伏線のつもりだったわけじゃ無いけど、結果的にそういう事になった。昨夜の新宿ピットインは、坂田明とJim O'Rourkeのセッション第2弾。今回はちゃんと、Boredomsのヨシミを迎えた3人でのセッション。開演前にピットインに着くと、その前日や前々日を合わせてもこんなに待ちの人は居なかったと思うような人数。ま、こういうもんだな、現実は。

予定から10分ほど遅れて3人の登場。昨年のセッションはある種のグルーヴ感を伴ったものだったけど、今回は趣向が違う。ヨシミはドラム担当のはずなのに、ドラムセットは異様にシンプルで、これであの2人に対応するつもりなのか?、と、ちょっと首を傾げたくなったのだけど、実際にはあまりドラムは使わず、ボアの『Seadrum / House of Sun』でのボーカルのようなパフォーマンスがメインだった。坂田明はもちろんアルトから演奏を始める。そのアルトとヨシミのボーカルがシンクロする部分は、アルト自体が元々肉声に近い音を持っていることもあって、サックスと肉声が重なっているという事を意識させない状態になる。そしてJim O'Rourke。前回はギターを弾いている時間が長かったと思うけど、今回は、主にテーブルに並べた数々のエレクトリックな装置で音をコントロールしている。音楽的なイニシアチブは、完全にJim O'Rourkeが握っていた。実はCDではエレクトリック音楽をよく聴いているけど、ライブは色々思うところがあってあまりそういう現場には行っていない。だけどJim O'Rourkeの選ぶ音は、普段そういう音に従事しているミュージシャンを上回っているんじゃないかと、勝手に想像出来る様な音だった。微音は勿論、ノイジーな音やメロディックな瞬間もあって、その手の音楽に足りない色気がJimの音にはあった。それでもやっぱり肝心なところはギターという事で、若かりし頃にDerek BaileyのCompanyの演奏に参加した事もあるそのギターは、存在感ありまくりだった。ヨシミは時々ドラムを叩くのだけど、そうなると自然に坂田の演奏も熱を帯びていくのがわかる。ヨシミのドラムは特に相手を鼓舞するようなものではなく、割と淡々とした音をだすのだけど、それがJimの音に上手く嵌っていて、演奏の感触を変えていた。あっという間に休憩になっていて、1stセットは1曲のみの演奏だった事に気付く。

2ndはヨシミがピアノの前に座って、もちろんピアノを演奏。そのピアノの音もJimがエフェクトをかけた状態にして、サスティーンがかかったような音になる。ここで坂田はクラリネットを吹いてみせて、約10分ほどの演奏。そして本編の最後は1stセットの様に長い演奏。これがどうだったと言いにくいぐらい、凄い演奏だった。各々の持てるスキルを上手くコントロールして演奏を作り上げていくさまは、この夜、世界で一番の演奏を聴いたと思えるものだった。特にクライマックスに向けて、Jimの奏でるギターがメロディック且つノイジーな音でバッキングをつけて、その上で坂田がアルトから振り絞るように音を出している時の凄さは、感動的なものだった。




昨年の事もあるし、アンコールはせがまない方がいいのかもと思っていたら客電が点いた。やっぱりアンコールは無しという事かと思っていたら、何人か手拍子を始めたので、そのうち周りも(当然オレも)付き合って手拍子。すると楽屋からJimが帽子だけだして、「もっと手拍子しろ」とでも言うように帽子を振る。それを見て手拍子が大きくなり、アンコール成立。アンコールは短い演奏だったけど、この夜のエピローグとしては十分。