藤井郷子オーケストラ

去年の後半は「行きたいものは全部行ってしまえ」という考えで、結構ライブを見倒した感がある。凄く充実したのだけど、今年は抑えていこうとも思う。

とか考えながら、今年の初詣代りに新宿ピットインに向かった。今日は前々から一度見たかった藤井郷子のオーケストラ。若干興奮気味。いつものように開場前ギリギリに到着すると、またしても10人ぐらいしか人がいない。「おいおいおい、藤井郷子だぞ。こんなんでいいのか?」と思うが、まあ、仕方ない。開場して席に着く。さすがにオケだけあって、ステージには多くの椅子が並んでいる。いつもの最前列は取り払われている。BGMはJB?、などと観察していると、10分ほど遅れて演奏が始まった。

ステージには15人の演奏者がいる。そして何故か、ピアノには田村夏樹が座っている。実は1stセットの藤井郷子はあまりピアノを弾かず、タクトをふる方を重視していた。だけど、1曲目はどうしてもピアノの音が必要だったようで、それで田村夏樹が代役を務めていた(のだと思う)。15人中12人は管楽器で、それがいっせいにテーマを奏でると、さすがに迫力が違う。あれだけ演奏者がいると、イチイチ誰がどうだったなんてあまり覚えてもいられないのだけれど、1stセット最後の曲での早坂紗知のソロが、最も強烈だった。早坂紗知を生で聴くのは初めてで、CDでも少ししか聴いていないのだけど、あのソロはメチャクチャカッコよかった。まるでDolphyのソロのように思えた。その曲の前に藤井郷子がMCでメンバー紹介をしたのだけど、その時に「日本のジャーナリストは若い、可愛い子ばかり取り上げるけど(ここで早坂紗知はずっこける)、早坂さんこそ日本が世界に誇る女性ミュージシャンです」と言っていて、それを証明するようなソロだった。

2ndセットでは多少藤井郷子もピアノを弾きだして、やはり文句なしのカッコいいソロを決める。もっと弾いて欲しかったけど、これだけ演奏者がいれば、バンマスとしては自らを誇示する事より、各々の演奏を引き出す事に専念してしまうのだろう。2ndセットで最も凄かったのがテナーサックスの木村昌哉。1曲、頭から最後までソロを吹きっぱなしの演奏があって、そのイマジネーションの噴出ぶりが良かった。正しく力演だったと思う。それと、普段はあまり気に留めないバリトンサックスの音色が凄く艶があって、それは楽器の特性なのか鬼頭哲の演奏力なのかわからないけど、あの面子において、最もジャジーな音を出していたと思う。さらにもう一人、ラッパの福本佳仁が2nd最後の曲でミュートを使ったソロを取っていたのだけど、この音もMilesを思わせるようなジャジーな音でなかなかだった。




藤井郷子はオレが敬愛するミュージシャンの一人で、もっともっと広く知られるべき人だと思う。今日の観客の少なさ(多分70人にも満たない)を見て、彼女の知名度が上がっていくにはまだ時間が必要なのかと思うと、何か納得いかない。

今日のライブなんて、多分バンマスの藤井郷子は赤字だろう。そういう事も覚悟の上であれだけの面子を揃えるのだから、彼女の音楽に対する真摯な姿勢は、本当の意味でのミュージシャンシップなのではないだろうか。