内橋和久 / Hans Reichel

ダクソフォンという楽器があって、内橋和久がその使い手であることは知っていた。でもそのダクソフォンがどういう楽器か、CDなんかにその音が入っていたと思うけど、意識して聴き分ける努力はしなかった。

ダクソフォンを開発したのはHans Reichelという人で、内橋はそのHansにダクソフォンを師事したらしい。そのHansと内橋のダクソフォンでのデュオがあるという事で、ちょっと不安だけど今日(12/15)も新宿ピットインに行ってみた。

事前にネットでダクソフォンについて少し検索して、それが弓を使って演奏するものだと知る。「その名前から受ける印象は管楽器だったのに、弓を使うという事は弦楽器か」と思いながらピットインに向かう。

どうせあんまり人がいないだろうと思いながらも開場前にピットインに着くと、予想に反して15〜6人ほどの人が。さすがにHansにこれだけの集客力があるとは思えないので、内橋も知名度が上がってきたのか?、と思う。

20:00から15分ほど遅れて、1stセットが始まる。

ステージ上で「う"」という声が聴こえて、「どうしたんだろう?」と思い、内橋の表情を見る。でも特に、顔の表情は変わっていない。そしてすぐに、その「う"」が、ダクソフォンの音だと気付く。

確かにピットインのHPにも、人の声のような音が出ると書いてあったけど、まさかこんな感じだとは。言葉にならない声というか、歌の下手なヤツのハミングと言うか、そんな感じの音。Richard D Jamesが喜びそうな楽器だった。

弦が張ってあるという勝手な予想も覆され、三脚に木製のプレート、そのプレートは何種類もあって、テンプレートの様だったり、栓抜きの様であったり、普通の定規の様であったり、ナイフぽかったりと、それぞれ形が異なる。そのプレートを三脚に固定して、それを弓で擦ると、何故か人間の声のような音が出る。とてもシリアスには聴いてられない。その声も、発生する事を覚えたばかりの赤ん坊の声の様であったり、ホラー映画の怪物の唸り声のようであったり、さまざまな音が出る。

そんな音でデュオを2曲やって、内橋がギターに持ち替え、ダクソフォンとギターのデュオになる。その後は交互にギターを担当して数曲演奏し、1stセットが終わる。

ダクソフォンの音はオレの予想とは全然違う音がしていた。これはちょっと面白いものを聴いていると、最初の方は思っていた。ところが1stセットの中盤辺りから、正直って少し飽きてしまった。音は面白いのだけど、音楽的に面白いかと言うと、ちょっとそういう面での評価は難しかった。だからオレは、1stセットの中盤辺りから、半分寝た状態だったことを告白しておく。そんな事を思い出しながら2ndセットを待っていたけど、なかなか演奏が始まらない。すでにちょっとだれてしまった状態だったので時間が長く感じるのかと思っていたけど、結局30分待たされて2ndセットになった。もうこの時点で、「これはツマラナイかも知れない」と思い始めていた。

2ndセットもダクソフォンのデュオで始まる。ところが今度は、何故か1stよりも曲の展開が面白く感じた。そして次は内橋がギターに持ち替えての演奏。それまで、大体1曲あたり10分前後の演奏だったと思うのだけど、この演奏は、多分30分近い演奏だったと思う。そしてこの演奏は、残っていた眠気を全て吹き飛ばすようなカッコいいものだった。今日の内橋のギターは、Altered Statesの時の様に派手な演奏は無かったのだけど、ここでは徐々に熱を帯びてきて、得意のエレクトリックな飛び道具もガンガンくる。そしてHansは通奏低音のようにダクソフォンをゴリゴリやっていて、その不思議な音色が内橋の出す音に負けない主張を続けている。このダクソフォンをよく聴いてみると、人の声のような音だけではなくて、アルトサックスのような音になったり、擦弦楽器のような音を奏でたりする。気が付くと内橋のギターが感情移入状態になって、演奏は頂点まで上っていた。

こうやって一気にオレの感情を持っていくから、内橋のギターはたまらない。




その後はギターをHansが担当した演奏を行い、さらにダクソフォンでデュオをやって本編終了。休憩が長すぎた事を反省したのか、アンコールはステージを降りもせずに戻ってきて演奏した。

1stセットを聴き終わって、いつまでも休憩が終わらない時は、ホントに帰ろうかと思わないでもなかったのだけど、我慢して2ndを聴いてよかった。

但し一つ言いたいのは、正直言って、この形態で2セットの演奏を聴くのはちょっと辛い。2ndセットの演奏と、他の形式の演奏がセットになったようなプログラムが望ましかったと思う。