Unbeltipo Trio

John Zornという人は、彼の音楽が好きとか嫌いとかに関わらず、多分世界で一番上手いという評価をしてしまえるようなサックス吹きだと思う。ジャズにハードコアを持ち込んだ張本人のような人なので、オーソドックスなジャズが好きな人から見れば否定したいような存在だと思うけど、それでも彼のサックスをコントロールする能力はケチを付けられないと思う。だから勿論、John Zornのグループというのは、皆とんでもなく楽器の上手い人たちばかりで構成される。そんなJohn Zornが最も評価していたギタリストがFred Frithで、オレも好きなギタリストの一人。そのJohn Zornが「Fred Frithより上手い」と評した(と言われる)ギタリストが今堀恒雄で、オレの知っている限りでは、Tipographicaというグループのリーダーだった人。Tipographicaは、ジャズ〜フュージョンを経由したミュージシャン達がプログレをやってみましたという感じの音楽で、当時、なんかちょっとツルっとしてて、どう聴いていいかよくわからなかった。とは言いながらも、4枚発表されたアルバムのうち3枚は持っていて、実は結構聴いていたりもするのだけれど。

その今堀恒雄の今のグループがUnbeltipo Trioで、そのライブを昨夜ピットインで見てきた。初めてライブの今堀恒雄の音に接する事になったわけで、John Zornにそこまで言わせたギタリストの生の音というのはどんな音なのだろうと考えながらライブに向かった。



ちなみにUnbeltipo Trioの他のメンバーは、ベースのナスノミツルとドラムの佐野康夫ナスノミツルは今更何もいう事の無い、完璧なベーシスト。佐野康夫という人は全然知らないけど、使えないやつがメンバーにいるわけ無いので問題ない。ライブは、今堀恒雄サンプラーの音を使いながら始まる。それにドラムが音を重ね、ギターのちょっと繊細なイントロとベースが重なっていく。序盤、今堀恒雄サンプラーを触っている時間がわりと多くて、「もうちょい弾いてくれ」と思う。オレ自身も初めて聴くグループなので、慎重に音を拾って聴いている時間が長く、イマイチグルーヴを感じない。1曲目が終わるとナスノミツルが「ギター、少し上げてください」とPAに声をかける。そして2曲目の演奏。若干力が抜けたのか、少し演奏に熱を感じるようになった。今堀恒雄もあまりサンプラーを触らず、ギターに集中している感じ。そしてUnbeltipo Trioの印象は、Tipographicaをシリアスに演奏している感じで、オレとしては聴きやすい類の音。2曲目終了後もナスノミツルが「ギター、少し上げてください」と言い、「そんなにギターの音、足りなかったっけ?」と、思う。そして、1stセットの最後の3曲目。ここで今堀恒雄のギターが暴れる。1・2曲目では押さえ気味な感じだった今堀恒雄のギターだけど、3曲目では、極みスレスレのところまで音が跳ね上がったりして、一気に熱が上がる。

休憩をはさんだ後の2ndセットは文句の付け様の無い出来で、あっという間に終わってしまった感じがある。まあ実際、そんなに演奏時間も長くなかったと思うけど。2ndで今堀恒雄のMCがあり、「一昨日名古屋でライブをやって、今日は筋肉的には辛いのでホントはゆっくりやろうと思ったのだけど、でもこれぐらい力が抜けている方が演奏にはいいのかもしれない」と、苦笑交じりで話していた。本人のMCからも推測できるように、1stセットの序盤にグルーヴを感じなかったのは、抑えながら演奏しようとしていた為なんじゃないだろうか。それが、力の抜け具合が良い方向に作用して、いい演奏になってしまうという、結果になったのだと思う。他のメンバー、特にナスノミツルは、もう、惚れ込んでしまいそうな凄い音を聴かせてくれて、この時点でオレの最も好きなベーシストと断言できる、凄い演奏だった。ドラムの佐野康夫はフレキシブルなドラマーという印象で、今堀恒雄の書く曲は展開が複雑なものが多いのだけど、どれもそつなくこなしていて、色んなリズムパターンを聴かせてくれた。特に個性的というところは見つけられなかったけど、恐らくそういうものはこのグループには求められていないのだろうと思う。そして肝心の今堀恒雄だけど、オレの好きなギタリストのリストに、新たにこの人の名前が書き込まれるような人だった。Tipographicaの構築された音では、あまりギターの音を耳が追うという展開は無かったので気付かなかった部分が、このUnbeltipo Trioでは小編成という事もあって、彼の完璧なギタースキルを聴く事が出来た。彼の音の個性は、プログレの影響を感じさせる構築美と、それを沸点まで到達させるようなギリギリのところを行ったり来たりするところだと思う。行ったら行きっぱなしじゃなく、ちゃんと戻ってきて、音をコントロールしているさまを感じる。



ライブはアンコールを迎えて、今堀恒雄が「ホントにアンコール要る?、結構お腹いっぱいじゃない?」と言ってたけど、まあ客はワガママなので、お腹いっぱいでもおかわりが欲しいのです。アンコールで今堀恒雄が「来年は、Unbeltipo Trioと平行してもう一つやろうと思います」と言ってて、それがどんな音なのか、また楽しみが一つ増える事になった。