GEN JYO RAKU

土曜のTokyo Rotationに行くと決めて、物販で『Bass & Drum』も買おうと思っていた。チケ代が¥9,000と高いけど、軽い財布でもCD1枚分ぐらいは流石にOKだった。なので2ndの入場をして席を確保して外で1本タバコ吹かして中に戻って、その時にCDを買おうと思っていたのだけど、すると月曜のライブのチケットも売っていた。『還城楽』というタイトル。元々Bill LaswellJohn Zorn雅楽と共演するというライブ。これがある事は知っていたけど忘れていた。というか、元々見るつもりは無かった。けど、Zornが来日できなくなって、そのトラがDJ Krushである事をその物販コーナーで知る。「マジか? でもこの世田谷パブリックシアターってどこだ?」って思ったので物販の人に聞いたら三軒茶屋らしい。なんだ、近くか。と、思い、それなら行くかとそこでチケットを買ってしまった。¥7,500。財布には小銭しか残らず、『Bass & Drum』はお預けになった。
雅楽の演奏を、お金を出して見に行くという事を考えたことは1度も無い。無料でも、わざわざ足を向けるという事は、正直な話、考えにくい。けれど、こういう機会になってしまって、初めて雅楽を目の当り。
まずはLaswellとKrushが登場。宮中を模した雅楽のス
テージの両脇にこの2人。演奏を始める。序盤はKrsuhはSE的に音を扱い、Laswellもグルーヴとは違う演奏。雅楽にあわせるのなら、こういう音の扱いしか無いよなあって思っていたら、Krushがビートを入れ込む。え?、まさかこのビートと雅楽をあわせるつもりか?って思いつつ、けれど、その上に載せる音が徐々に和楽器の音になり、そういう音を取り込んできたKrushらしい雰囲気。けれど、Laswellはペースを崩さず、と思っていたら、レゲ的なフレーズも交えたグルーヴの場面もあって、音楽はマッシュされたような雰囲気。そこに静々と雅楽のオケ登場。それぞれ陣取り、その音楽が始まる。フロントに大太鼓と小太鼓と鼓で、その後ろに琵琶と箏。さらにその後ろに笙と横笛と篳篥。それぞれの楽器の音は聴いた事のあるものだけど、これが生で合奏する音は、それもわかっている音ではあったけれど、やはり新鮮に聴こえる。既にKrushはビートを外し、Laswellは椅子に座り、雅楽の定型に音を合わせる。壊してしまうという事を全くしない。殆ど色添えの様な音の入れ込みだった。そして多分、1曲という単位が終わると、LaswellとKrushのコンビの演奏に戻り、雅楽のオケは一旦退場。その演奏の位置がステージ後方に変わり、元々オケが居た場所には天狗の様な面をかぶった人。それが舞人。その独特の舞は、狙いは違うだろうけれど滑稽さもありながら厳粛でもあって、歴史が作ったものと言われれば、納得してしまうようなもの。その舞が始まると、それまで時折音を挟んでいたLaswellとKrushはステージから引っ込む。完全な雅楽の時間。目は舞を追いつつ、各楽器3人ずつの笙と横笛と篳篥のアンサンブルを聴いて、Rahsaan Roland Kirkを思い出す。Kirkが何本もの管楽器を咥えて鳴らすアンサンブル、それは雅楽のアンサンブルに良く似ていると思った。
その後最終的にLaswellとKrushのコンビでの演奏に戻り、ライブは終わった。このライブで思い出したのは、10年以上前にオーチャードで見たOrnette Colemanの『Skies of America』の再現。クラシックとジャズの融合だったそれは、けれど、全く別物として各々の音楽だった。それに似ている。結局、LaswellとKrushのコンビで出した音と、雅楽がまったく別のもので、絡み合ったとは思わない。けれど、こういうあいそうも無いものを無理やり合わせてみようとする試みって、いかにもLaswell的じゃないだろうか? 今夜は結果的にこういうものだったけれど、つまらなかったってのとはちょっと違う。安パイで音楽出来ないのがLaswellの面白さだと再認識した。もしJohn Zornだったらどうだったかって思う人もいるかも知らんけど、Zornだったとしたら雅楽じゃないところでフリークトーンが聴こえただけで、多分特に面白い結果を作れたとは想像しにくい。それよりもヒップホップ的なスキルとエレクトロニカなビートで雅楽の重厚さとは全く違う音を持ち込んだ今夜のKrush入りの結果の方が、色々思う事が出来て後を引く。
ライブの前、席について待っている時に、近くでオレよりも1回りは上のオッサンな連中がぶつぶつ話していて、それを聞くつもりは無かったのだけど、どうも多分、John Zornが来日できずに面子が変わったことの不満を言っているようで、なんかなあって思っていたら、結局やっぱり気に入らないとかなんとか言って演奏が始まる前に出て行った。なんかなあ。まあ、Zorn目当てで来たのに、そのお目当てが来ていないというのは確かにショックかも知らんけど、それは中に入る前に気付いていたはずだし、そもそもZorn目当てなら、今夜じゃなくてピットインのライブを選んだほうが正解じゃないか? 今夜のライブは、多分これ以上無いというぐらい実験的な組合せで、ここにZornが居たとしても、それを満喫は出来なかったはず。そんなことぐらいはわかっているはずなのに、折角足を運んで着席までしたのだから、ブツブツいわずに見ていけばいいのになあって思った。
今夜は無事に物販で『Bass & Drum』を購入。消費税分だけ安かったのが嬉しい。