Atomic

2006年のMZN3の来日から今まで、散々ノルウェー絡みのライブを見ておきながらなんだけど、元々ユーロなジャズはあまり好きじゃなった。イメージとしてECMがそれで、そのECMが苦手だったという事が大きい。だけどHat Hutは好きで、多分それはHat HutがJohn Zornの作品やAnthony Braxton、さらにMatthew Shippの作品をリリースしている事と関係している。

ユーロのジャズで初めて好きになったのはCourtney Pine。真摯なフリー・ジャズと言える『Within the Realms of Our Dreams』、レゲエなアルバム『Closer to Home』、さらにクラブ・ユースにも受けそうな『Modern Day Jazz Stories』を出したりと、この人を聴いていれば色んなものが聴けた。今では殆ど足を向けることの無いブルーノートで、2回ライブも見た。

だけど近年のPineはパッとしない。その代わり、北欧が気になる音を聴かせてくれるようになった。北欧の音を聴きだしたキッカケも「じゃずじゃ」で、Lars Danielssonの『European Voices』をラパポート氏が紹介していて、Larsの名前は覚えきれなかったけれど、ディスク・ユニオンでポップに「じゃずじゃで紹介」と書いてあったのを目にして、「ああ、これか」と手にした。その時はそれを強く気に入ったりはしなかった。けれど、ECMじゃないところにジャズがある事を知った。

その後さらに「じゃずじゃ」でBilly Cobhamの作品『Nordic』を知る。ここに入っているピアノが変な感触。それがBugge Wesseltoftだった。



前置き長い。



Atomicの作品を手にした時、何故このバンドが人気があるのかよくわからなかった。というか、今でもよくわかっていない。初来日の時の初日のピットインには足を向け、確かに面白かったとは思うけれど、翌日も見たいと思うほどではなかった。2回目の来日はAtomic単独のライブが無く、それなら足を向ける必要は無いという事で見に行かなかった。そして今度の12月、3度目の来日。今回は東京だけでは無く、名古屋京都大阪も含まれる。東京は2日間、ピットイン。既にオレは両日ともチケットを購入。個人的な、ここ2年間の総括だと勝手に決めた。初来日からここまで、Paal Nilssen-Loveのドラムに圧倒され、Ingebrigt Haker Flatenが最も好きなベーシストの1人になった。1年前のHavard Wiikのピアノの音も忘れられない。



Atomicの新作『Retrograde』がリリースされたのは初夏。3枚組みという事もあり、結構な価格だったのでHMVのネットストアで「輸入盤3枚買うと割引」を利用して購入。その後レコファンで、より安い価格で見つけてイラつく。まあそれはいいとして、やっと日本盤としてもリリースされるようで、これは12月のライブに合わせてという事なのだろう。

Ornette Colemanを思わせる「Db Gestalt」で幕を開け、タイトル曲の「Retrograde」は曲の転換が唐突なせいで、次の「Invisible Cities」につながって聴こえる。この2曲のフリーテンポな部分は、今のONJOと同じ感覚を有していると思う。ハンドクラップと「ウガジャガ」と言っているように聴こえる人の声がイントロの「Painbody」は、ドライブするFlatenのベースがカッコよく、多弁なFredrik LjungkvistのサックスとMagnus Brooラッパが嵌る。この曲もサックスとラッパがテーマをユニゾンするとOrnette的。Flatenのアルコと筋違いに聴こえるPNLのバッキングの上をWiikのピアノがらしさを強調する「Correspondence」。室内楽的なSweetなテーマから一転、突き落とされるようにタイトル通りの漆黒なWiikとPNLの乱雑な音に変わる「Sweet Ebony」で1枚目は終わる。

なんとなくカリブな「King Kolax」から始まる2枚目。続く「Invisible Cities II」は管楽器の響きが現代音楽的で、PNLはプリミティブ。Brooのラッパのソロにやられる「Papa」。続くWiikのソロに聴き惚れているとテンポが上がり、Flatenのグルーヴ、PNLの激しいドラムの上を、よたよたとサックスが歌いだす。そこで上がった熱を落とし、また上げる。めんどくさい曲。テーマからソロの受け渡し、絡み合いが古のハード・バップ的な「Don Don」。一転「Folkton」は、スペースを生かした音の配置。前曲の雰囲気を引きずったかのような「Hola」では、Wiikの冒頭の無伴奏ソロから、それに音を重ねてペースを作るFlatenのベースが気になる。「Swedish Oklahoma」はLjungkvistのクラリネットの響きが印象的。2枚目最後の「Kolonienstrase」は、最初のテーマの後に出てくるPNLのソロが、ただのパワーヒッターではない事を主張している。

3枚目はライブ盤。スタジオ録音を終えて、その上でライブの音も聴かせたいということなのか?、オリジナル・アルバムとしては珍しいセットだと思う。このライブ盤の感想は端折るけど、正直言えば、スタジオ録音との音質の差は気になる。



このログを書くために、雑多に聴いていたこの作品をじっくり聴いた。途中で飽きるだろうと思ったけれど、結局最後まで一気に聴ききった。だから、元々1日だけ行くつもりだった今回のライブを2日とも行く事にした。









Atomic 『Retrograde』





ついでにライブのフライヤーも無断で貼っておきます。

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