酒井俊 / 内橋和久 / 芳垣安洋

昨年の九月に見た内橋和久が歌伴についた酒井俊のライブは印象深いものがある。その時はドラムの外山明やアルト・サックスの林栄一が加わったりしていたけれど、昨夜は酒井と内橋に加えて芳垣安洋を加えた編成でライブが行われた(@ピットイン)。

内橋は抽象的な音も使っていたけれど、前回の印象ほどではない。なので割とまともにバッキングするのだけど、それでもエレクトリックな音やループを使った音など、所々にらしさが出てくる。芳垣は摩りや擦りによる音を上手くリズミックに使ったり、効果音的に使ったりしながらの演奏。さらに場面によってはジャジーな叩きやブラシのさえるスティックワークもあり、らしいというか流石と言うか。そしてメインの酒井は、地に足の付いた歌声というのか、とにかく、歌手として申し分の無い歌声を披露する。ベースにジャズはあるのだろうけれど、そういう雰囲気に流されず、あくまでも日本人の歌う歌という立脚点が感じられ、そこに説得力がある。

三者が一体となって演奏は進んで行く。前回見たときと同じくThe Doorsの「Alabama Song」、Victor Jaraの「El Derecho de Vivir en Paz」、The Bandのアレンジを記帳にしたBob Dylanの「I Shall be Released」、「Amaging Grace」等に加えて、「ヨイトマケの唄」、Leonard Cohenの「Hallelujah」、Chicの「At Last I am Free」、Eric Claptonの「Wonderful Tonight」、美空ひばりの「愛燦燦」といった、オレにでもすぐにわかる楽曲が演奏される(他にもアメリカン・スタンダードな楽曲がいくつか)。圧巻は「Amaging Grace」。日本人でもよく知っている曲であり、多々色んな人に歌われているこの歌を歌うという事はある意味危険でもあるはずだけど、それを見事に歌い上げる。曲の終盤、内橋と芳垣の持っているアグレッシヴな側面が前面に出て、そっち系の音のファンであるオレはその音を堪能。静から動への移行のようなこの演奏に、文句の付けようがない。

歌も演奏も申し分なかった。選曲も個人的には嬉しい。と、褒めるばかりではなんなので。2ndの序盤に歌われた酒井のオリジナルと思われるコミカルな歌はあまり面白くなかった。コミカル・ソングというか、そういう歌って、そのセンスに共通するところが無ければ反応しにくい。「かんぴょう」とか歌う曲と「何丁目の犬が」とか歌う曲の二曲が続けて歌われたのだけど、個人的にはイマイチだった。こういう歌が無くても問題のない歌い手だけど、こういう歌も歌うのが酒井の個性なのだろう。だから歌う事自体の否定は出来ないけど、せめて一曲にして欲しかった。そうすれば丁度いいチェンジ・オブ・ペースとして機能すると思う。



昨夜の演奏は録音されるとの事だったのだけど、それがリリースされるのかどうかはわからない。リリースされれば個人的には自慢が一つ増えるのだけど・・・。