Eric Dolphy

Out to Lunch!』はフリージャズと称される事もあるけれど、これはフリージャズとは違う。曲のテーマが前衛的なものを感じるので、そういうイメージが付いてしまったのかもしれないけれど、実際にはトーナルの範囲内でおさまった演奏になっている(と思う)。



オレがジャズを聴くきっかけになったのはEric Dolphyで、結局未だに、Dolphyよりもその音に気持ちが傾くという事は無い。どんなものでもDolphyがソロをとれば、その瞬間に音は飛躍する。Dolphyはどちら側から見ても常に異端で、そいうミュージシャンはDolphy以外に見当たらない。

だからこそDolphyは、その音がいつまでも古くならない。そのDolphyの残した音で、最も充実しているものは、やはり『Out to Lunch!』だと思う。

この『Out to Lunch!』は、1964年に録音されたBlue Noteレーベルからのアルバム。既に40年以上が経過しているにもかかわらず、錆なんてものは何処にも見当たらない。ここにはわかりやすいエモーションは無い。その為初めてこれを聴いた時は、この音を繰り返し聴きたいと思わなかった。『At the Five Spot』のようにタバコの煙漂うような雰囲気も無ければ、『Last Date』の「You Don't Know What Love Is」のような美しい旋律も無い。奇妙なテーマが現れると、お互いを煽ったり、逆に無視しているかのような演奏を行う。フリージャズの様な熱も無ければ、メインストリームのようなわかりやすさも無い。もちろん、ファンキーなんて言葉は出てこない。それが『Out to Lunch!』で、だからこの音に触れた瞬間は、決して良い印象ではなかった。それから何年経ったのか、オレは気が付けば、Dolphyの残した音の中でこのアルバムを最も耳にしている。「聴けば聴くほど」という言葉は良く使われるけど、オレにとってその言葉が一番に合うのはこのアルバム以外に見当たらない。ソリストに気持ちよくソロを取らせる気なんて持ち合わせていないようなAnthony Williams、アルコで擦弦ならではの音色を聴かせながらも、ピッチカートでフレーズを省略したかのような太いベースを刻むRichard Davis、ピアノレスのセッション迎えられた事で、その独特な響きに邪魔が入ってこないBobby Hutchersonの音は、叩きつけた瞬間にフェイドアウトを避けるように残り続ける。その器用さからいくつものセッションに呼ばれて、卓越したスキルを見せ付けているFreddie Hubbardの演奏は、この時点で唯一Dolphyについて行けるトランペット奏者であることを証明している。そしてリーダーのDolphyは、Dolphyにしか吹けないラインと、それまでのDolphyのソロでは聴けなかったようなラインを聴かせる。特にフルートは今までの演奏とは違う境地の音を聴かせていて、ここでEric Dolphyというマルチ・リード奏者は完成してしまったことを提示している。




ここにある不穏な音は永遠にパッケージされた。Dolphyはどこかに昼メシに行ったまま、まだ帰ってないようだけど、『Out to Lunch!』はずっとそこにある。