Sonny Rollins

アルバム『 Without a Song』の時にはあんなことを言っておきながら、これが最後の機会になるかもしれないという事になれば、見逃す事が出来なかった。という事で昨夜、Sonny Rollinsの『Final Live Tour in Japan』と銘打たれたツアーの最終日を、東京国際フォーラムで見てきた。João Gilberto初来日公演以来の東京国際フォーラムだけど、相性がいいのか、今回も席はかなり前の方。シクステットでの演奏だけど、Sonny Rollins以外のメンバーは全然知らないので、他のメンバーの演奏に浮気する事も無く、Sonny Rollinsだけをチェックする事が出来る。

客電が落ち、メンバーの入場。ここで初めて、あのSonny Rollinsの姿を見る。足取りは高齢者のあの調子。「ホントに大丈夫かよ」と、内心思ったのは言うまでも無い。演奏が始まり、あのサックスがトロンボーンと共に曲のテーマを奏でる。ソロの先発はトロンボーン。こういう時はメインの奏者が先発じゃ無いの?、と、少し不安な気持ちになる。ところが肝心のSonny Rollinsのソロは、多少微妙な揺れを感じさせながらも、堂々としたもの。イマジネーションも枯渇してなく、予想外に聴かせるソロだった。序盤の二曲は、他メンバーへのソロ回しが少々長い展開で、正直オレにはイマイチに聴こえるソロもあったけど、Sonny Rollinsのソロは十分楽しめる音だった。そしてこの日のベストは、多分三曲目のスローな曲。ここでは他のメンバーにあまりソロをとらせず、Sonny Rollinsのロングソロで一曲吹ききった。70を過ぎてこんなソロが取れる事に驚く。その後の演奏も特に文句の付け所も無く、会場も盛り上がって、曲の終わりの拍手の長さと、本編終了時のスタンディング・オベーショは、オレが今まで見たライブでは無かった光景。アンコールのバラッドも胸に染みる演奏だった。




と、ここに書いたのは勿論本音だけど、もう一方で、別のことを思っていたことも書いておく。それは、昨夜聴いた音楽は、しのぎを削るような音のやり取りではなく、ジャズというエンターテイメントの場だったという事。ステージでのSonny Rollinsの仕草や演奏は、一応ジャズという音楽が好きであれば、誰もが楽しめるものだったと思う。だけど、そこにあった音は、オレが普段好んで聴いているジャズとは違う、一夜で完結してしまう音楽だった。それはこれがラストツアーだからという事ではなく、ここから何かが生まれたり、何かを継続したりはしないと感じたという事。「St. Thomas」で起きた手拍子とか曲の終わりの長い拍手、それにスタンディングオベーションがそれをあらわしていたと思う。そして、これが肝心なところだけど、オレはそれをダメだと言いたいわけじゃ無い。こういう楽しみ方があってもいい、と思った。だからオレもその予定調和に参加したし、それを楽しんだ。こういう音の楽しみ方っていうのは、野球で言えば、内野席と外野席の違いだと思う。外野席はそのチームの応援団という連中が陣取っていて、単純にいいプレイを楽しむ空間ではなく、皆で一緒に応援したり、相手チームをヤジったりして盛り上がる側面が大きい(単純にそうではないところもあるだろうけど)。それに比べて内野席は、そういう輪から離れて、単純に野球のスピード感や迫力を感じる事が出来る。もう何年も行ってないけど、オレは野球を見に行く時は外野席は好まず、少々高くついても内野席を選ぶタイプだった。それでも付き合いで外野席で観戦する事もあって、それはそれで楽しんでいた。音楽も、常にどちらか一方で触れるんじゃなくて、たまには視点を変えて楽しむという事が、色んなものに気付く事になる。と、思った。