Sinead O'Connor

Neil Youngのところで名前を出したら、なんとも言えないタイミングで新譜が出た。しかもレゲエのカバー集で、「War」も入ってる(ホントはあの時点で、このアルバムが出る事を知っていた)。



実際に音を聴いてみるまで、どんな仕上がりなのか気になってた。Sly & Robbieのプロデュースという看板は惹かれるのだけれど、最近のSly & Robbieの音は知らないし、変にワールド・ミュージック的な要素が入ってしまったりしないだろうかとか、余計な事を考えていた。ところが『Throw Down Your Arms』は、オーソドックスなレゲエの音。アルバムの1曲目「Jah Nuh Dead」は、バッキングと言うより効果音的なギターと、微かなノイズの入ったアカペラに近い歌唱。2曲目以降はタイトなリズムをバックに、時には表情を変えながら、レゲエという音楽にアプローチしている。正直言ってここまでの出来を予想できなかったので、個人的には驚く部分と嬉しい気持ちが交錯している。




アルバムのライナーにも書いてあるし、しかもレゲエのアルバムという事で、そのライナーを参照しながらもう一度、「ローマ法王の写真破り捨て事件」の事を。Sinead O'Connorの生まれたアイルランドというのは、厳格なカトリック教徒の土地で、国の法律もカトリック教の戒律から決められている部分が多いらしい。カトリック教というのは、離婚や中絶を許さず、時代に合わない部分が多くて、それによって苦しめられている人たちがいる。離婚や中絶という事が正しいとは言わないけれど、そういう選択肢が無ければ、苦しみ続ける人がいることも現実だろう。Sinead O'Connorは、宗教によって個人の行動や選択が虐げられるという、そういう姿勢を非難しての行動だったわけで、宗教そのものを否定しているわけではない。事実彼女は、99年にカトリックの司祭になっている。それでもこのアルバムで彼女は、「Jah」についての歌を歌うわけで、この辺の複雑な心情は無宗教なオレにはわからないけど、一つの教えを絶対とする事ではなく、それぞれの良いところを尊重し、取り入れていくべきだと考えているのではないだろうか。あの「War」は、平等と平和というもの追い続ける、その為に戦い続けるという宣言をしている歌で、あの時「War」を歌って見せたSinead O'Connorは、この曲を歌うことによって、決意宣言をしたのじゃないかと思う。



このアルバムで歌われる「War」は、オレが見たあのシーンのように、「一人対それ以外」のような歌い方にはなっていないけれど、この歌をあえて入れてくるという事は、彼女の信念は、あの頃から変わらないままだという事の証なんじゃないだろうか。気持ちの切れない彼女の歌は、今も無垢な魅力を感じることができる。