藤井郷子

なんか最近、圧倒的にジャズの比率が高い。でも、それだけ、今年は当たり年という事になると思う。

そしてこの藤井郷子は、オレにとって現在のジャズシーン、日本だけでなく、知っている限りの世界のジャズシーンで、最も刺激的な音を出すミュージシャンの一人。ソロ・デュオ・トリオ・カルテット・オーケストラ、その全ての作品に一聴の価値がある。オレは日本人であるというだけで、彼女のライブに触れる機会が他国の人より多いという、恵まれた環境にある。といっても、今年はまだ一度もライブを見れてないのだけど。



今回出たアルバムは、昨年のライブをCDにしたもの。昨年のそのライブは藤井郷子のトリオ+1で、オレは諸事情によりそのライブを見ることが出来なかった。トリオは、藤井郷子のピアノに、ベースのMark DresserとドラムのJim Blackという、現在考えられる最も理想的なユニットの一つ。このトリオに、藤井郷子のハズバンドである田村夏樹のトランペットが加わったのが、去年のツアーだった。このトリオでの演奏は滅多に見ることが出来ないので、去年のライブを逃したのは、ちょっと後悔してしまう出来事だけど、まあ、そんな事を言っても仕方ない。その昨年のライブの音を、今回藤井郷子4という形で発表してくれた。



1曲目の「Ninepin」のイントロ(ちなみにスタジオ録音は、カルテットで早川岳晴のベースソロ)で、一瞬「ショパン?」とか思ってしまうが、藤井郷子も元々はクラシックの教養があるはずなので、そういった音もおかしくは無い。その後長いイントロを経て、やっと曲のテーマが現れる瞬間は何度聴いてもカッコイイ。「Magmaっぽい」と言われたことのある藤井郷子のユニット、それは多分カルテットの方だと思うけど、その面目躍如が2曲目の「Illusion Suite」。36分オーバーのこの曲をライブでやったのかと思うと、さすがと言うか、なんていうか。この曲のスタジオ録音も流石の出来だったけど、このライブバージョン方が勢いがある。特に藤井郷子のソロは、Cecil Taylorを濃縮したまま還元せずに音を出すような瞬間があって、「こんな長い曲でパワー使って大丈夫か?」とか、余計な事を考える。通常のピアノの音が一音鳴った後、プリペアドピアノ(多分)の音が使われる3曲目の「Looking Out of the Window」。このプリペアドの音がBaileyを思い起こさせるような音で、得した気分になる。

何処を聴いても文句無しなのだけど、今回の最大の利き所は、あえてMark Dresserの出すベースの音と言ってみたい。今までのトリオのアルバムで、ここまでMark Dresserの音が耳に入ってきたことは無かった。特にそのソロの瞬間は、その音色の美しさで音が浮遊しているかのように感じる。