Terje Isungset / 一噌幸弘

しつこくノルウェー音楽ネタを続ける事が出来る・・・。Terje Isungsetといえば、Jazzlandからリリースされた『Iceman Is』ぐらいしか知らなかった。これは氷で出来た楽器を使って録音されたもので、購入に当たってはそのスタイルに興味があったというよりも、Jazzlandのものだからという理由だった。なので実は氷の楽器という事が奇をてらったものに思えて、『Iceman Is』はほとんど聴いていない。そういう音の印象が無い状態だったけれど、まあ、折角来日するとの事だったので、久々にノルウェーのミュージシャンの演奏を見に行ってみた。

場所は新宿のピットイン。なので氷の楽器を使う事は出来ない。どうせなら氷の楽器を見たいところだけど、今回は千歳の「支笏湖氷濤まつり」というイベントに参加することが最大の目的だったわけで、そこでは氷の楽器によるライブが行われた。しかも、Arve Henriksenも参加している。これはかなり見たかったけれど、さすがにこの目的のためだけに北海道に向かう財力がオレには備わってなく、断念。まあ、それはおいておいて、氷を使わないセットのTerjeというミュージシャンの演奏を、大きく期待せずにピットインに向かった。

集客はまあまあといったところ。立ち見がいるかいないかぐらいの感じだったと思う。客層も、オレが普段見に行くライブとは異なっていて、結構女性が多かったような気がする。共演の一噌幸弘という人は日本の伝統音楽などで使われるような笛を使う人で、CDは持ってないしライブを見るのは今回が初めてだけど、インプロ的な演奏活動をしている人なので名前は知っていた。

1stセット、Isungsetが姿を現す。長身でスリムな感じは、いかにも北欧という感じ。ステージ上で何やらもそもそしていると思ったら、口琴を使い出す。これをセットするためにもそもそしていたわけだ。「ビヨーン、ビヨーン」と、口琴の独特な響きが鳴る。ユーモラスな感じと、まるでエレクトリックな楽器のような響きが鳴り続ける。少しパターンを変えたり、自らの声を混ぜ合わせたりして、予想以上に長く演奏。だけどこの少しずつの変化が、単調とギリギリの境のグルーヴを作っていたと思う。オレは結構気に入った。その口琴だけで一度演奏を終え、続けてドラムセットを使った演奏を行う。この時点で一噌が加わらないという事を見て、これはソロで演奏するということに気づく。Isungsetの使うドラムセットは、当然のように普通のものではなく、芳垣安洋が自ら主催のユニットの時に持ち込むような、いろんな小物を用意している。そのセットを見た時から予想していたけれど、演奏は昨年の芳垣のソロのようにプリミティブな演奏。手を変え品を変え色々を音を出し、曲ではなく、音を使った演奏を見せるという言い方が当てはまると思う。なんとなくいろんなものを喚起させるその演奏は魅力的なだった。

Isungsetの演奏が終わり、休憩を挟まずに入替わりで一噌が登場。なんだか変に曲がったオカリナのような笛を取り出して演奏を始める。和楽器の類だろうその笛は、否が応でも日本の楽曲が頭に浮かぶ。なんか、こういうものをあまり聴いていないので、一応同じ日本人なのにも関わらず、妙にエキゾチックに感じてしまったりする。つづけて縦笛を二本くわえて演奏。なんか、宴会芸っぽいと思ったりしたけれど、さすがにそういう領域ではない演奏を披露。二本の笛による合奏はなかなか心地いい響きで、若干眠くなった・・・。そして今度は横笛に持ち替える。これは演奏時間は短かったけれど、急激な強い音を放つ。攻撃的とも言えるその音は、オレの眠気を吹き飛ばした。

20分ほどの休憩を入れて、2ndでは二人のセッション。多分、1stセットのお互いの演奏を見て、それを頼りに即興を行うというコンセプトだったと思う。実際、この組み合わせがどのぐらいフィットするのか気になったけれど、両者の性格なのか、お互いに歩み寄るように演奏を行う。音色的には完全な調和は難しいのだけど、お互いにユーモア精神溢れる演奏で、音はもちろん、動きでも笑いを誘う。こういうと緩い演奏だったみたいだけど、シリアスばかりではない即興も存在するという事。ヨーロッパ・フリーの流れの硬派な即興は当然大好きだけど、この手の楽しい即興も捨てがたい。




Isungsetのバスドラの鳴らし方が面白かった。小刻みに断続的に鳴らすバスドラは、ベース・ギターが低音を引き受けている時と同じ効果が出ていて、それが演奏全体に安定感を与える要因だったと思う。それと、アンコールでのバスドラの鳴らしは妙に一噌の笛の響きにマッチしていて、何故急にそうなったのかと思ったら、それはバスドラを太鼓の様なテンポで鳴らしていたからだった。

まあ、とにかく色々面白くて、オレは昨夜でいきなりIsungsetのファンになった。珍しくライブの開始前に物販のCDに手を出して三種類ほど買ってしまっていたのだけど、まだ他にもCDはあったので、それも買えばよかったなあと、ちょっと後悔している。